東欧と中央アジアの諸国は、新型コロナウイルスが世界的に流行する中、市民に抑圧的な対応を取り、その権利を侵害し、本来守るべき人権義務を怠っている。
多くの国は、市民の生命を守ることより、反政府派を弾圧することに関心があるようである。ウイルスとの闘いを装って、人権を踏みにじっているように思われる。
ウイルス拡散防止に向けた制限措置は、一時的で、目的に対して相応なもので、人権基準に沿ったものでなければならない。
過度に市民を抑圧
4月6日、キルギス当局は、十数世帯が住むアパートの住民1人が陽性であることがわかり、アパートの出入口のドアを溶接で封鎖した。カザフスタンでは団地を強制隔離し、出入口を封鎖した。
4月18日、ウクライナ軍は、スタロマリフカ村に通じる道を封鎖したため、村民150人が外部と遮断され、食料、医療、その他の支援が受けられなくなった。
3月末、ロシア・チェチェン共和国で、警察がマスクを着用していない市民にプラスチックパイプを振りかざす様子を撮った動画が拡散した。
健康に対する権利への脅威
ベラルーシ、タジキスタン、トルクメニスタンでは、コロナ危機を見くびるかのように、複数の政治家が効果の証明されていない感染対策を勧めていた。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、「ウオッカ1日1杯がウイルスを殺す」とか、「サウナやスポーツも効果がある」などと発言した。ベラルーシ政府は、これまでのところ、人と人との適切な距離を保つための要請や指示を出ていない。
トルクメニスタンでは、大統領がコロナ問題や対策に触れることはなく、一方、保健医療制度は、資金不足で十分機能せず、市民が治療を受けられない事態に陥っている。
ロシアでは、過去10年の医療制度改革で医療従事者数や施設数が激減、設備や防護具も不足し、最前線でウイルスと闘う医療従事者は常に、感染の危険にさらされている。
表現の自由と情報入手への脅威
感染拡大と闘う上で、国は感染に関する正確な情報、そして感染から身を守る方法を市民に提供しなければならない。しかし、東欧・中央アジアのほとんどの国の政府は、非常事態令の権限を乱用して、ジャーナリストらによる情報発信を阻止している。
アゼルバイジャンとロシアでは、ウイルス対策の不備を指摘したソーシャルメディアの利用者、ジャーナリスト、医療専門家らが訴追された。
ウズベキスタンなどでは、「フェイクニュースを拡散した」として、法外な罰金を科された。
これらの国に共通するのは、政府の関心は、市民の生命を守ることではなく、反政府派の弾圧にあるということである。
3月19日、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は、パンデミック中の特別規則に反政府派勢力の孤立と一掃を狙った条項を盛り込んだ。規則が施行されてから、活動家2人が、フーリガンや窃盗の容疑をでっち上げられて逮捕・起訴された。
ロシアでは、医療労働者組合の代表を勤めるヴァシリヴァ医師が、フェイクニュースを拡散したとして取り調べを受けた。医療労働者組合は、医療専門家たちに当局の無能さを公表しようと呼びかけていた。その後、組合員は嫌がらせを受け、ヴァシリヴァ医師も医療用品の支援に訪れた病院で、隔離命令違反で拘束された。
ロシア政府批判で知られるノバヤ・ガゼタ紙が、チェチェンのロックダウン(都市封鎖)措置を批判する記事を掲載した。すると、チェチェンのカディロフ首長は、記事を書いた記者の殺害を挑発する動画をインスタに投稿した。さらに検察も圧力を加えてきたため、同紙は記事の削除を余儀なくされた。
東欧・中央アジアの各国政府は、コロナ対策の中心に人権を据えた上で、人や予算などの資源をすべて投入し、市民の健康を守らなければならない。
アムネスティ国際ニュース
2020年4月29日
出典:アムネスティ.:東欧と中央アジア:コロナ危機の中、人権尊重を©アムネスティ2020