フランスでは、2024年のパリ・オリンピックに向け人工知能(AI)を搭載した監視カメラの街頭での設置を認める法案が、3月23日に国民議会(下院)で承認された。フランス史上でもEU史上でも初めて、AIによる大規模監視カメラの導入が法的に認められることになった。
大規模な監視カメラの設置は、プライバシーの権利や表現と集会の自由の権利の侵害につながる。フランスは将来、暗黒の監視社会を迎えることになりかねない。
この法案は1月に上院で承認されていた。
数人の議員によると、この監視体制はあくまで試験的であり、オリンピック期間中の安全と治安の確保を目的に導入されるという。しかし、アムネスティは今回の法案が成立すれば、国が監視機器を選択する上で選択肢が広がり、ひいては警察権力の拡大につながりかねないと危惧する。
また大規模監視の導入は、人権を幅広く侵害するおそれがある危険極まりない政策でもある。公共の場でのあらゆる行動が、監視網に引っかかり、市民の基本的自由が損なわれるからだ。
これまで国会議員は、この法律が本当に必要なのか、本来の目的に沿っているのか、明確に示してこなかった。しかし、導入の必要性と妥当性を明確にすることは、治安と監視手法が集会の権利、結社の権利、プライバシーの自由や差別を受けない権利を保障する上で決して欠かすことはできない。
大会期間中の治安維持の必要性は理解できるが、一方でオリンピックにも国際人権法が適用される。これまでのオリンピックでは、AIによる大規模監視は、プライバシーなどの権利の全面的な侵害とみなされてきた。
AI主導の大量監視対策が実施されれば、数百万人がカメラに追跡され、監視されることになる。AIのアルゴリズムは、その半径内にいるすべての人物のデータを読み取る。
オリンピックでは、群衆の中の「不審者」や「異常者」を検知できるように、至る所にCCTVカメラ(監視カメラ/防犯カメラ)が設置され、ドローンが飛行することになる。しかし、これらの対応自体にも問題がある。
当局が、群衆の中の特定の人物を「不審」や「異常」と判断する上でのそれぞれの基準が過度に広いことが特に懸念される。私たちは、この喫緊の問題を自問する必要がある。
「正常」とは何か、その基準を設定するのは誰なのか。また、当局者が社会的に「異常」や「不審」を判断する権限を持つことは、当局に対する異議や抗議を萎縮させ、すでに標的になっている人たちに対する差別がさらに激しくなりかねない。EUでは、企業や公共機関がAIを開発・利用したことで発生した人権への脅威は、十分立証されている。
AIによる大規模監視で人種差別的取り締まりの頻度は増え、抗議する権利が脅かされる。有色人種や移民は、監視ツール、特に顔認証カメラで狙い打ちされるリスクが特に高い。
今回の法案は、プライバシーと人権への脅威になるだけでなく、EUのAI規制法の精神にも反している。AI規制法は、フランスが影響力を持つEUでAIの規制と基本的権利の保護を目的とした世界的にも重要な意味を持つ法律であるにもかかわらずだ。
EUは、今回のフランスの大規模な市民監視に向けた対応を重大な警鐘とすべきだ。
市民は知らないうちに街頭に設置されたカメラに監視され、当局の標的になりかねない。数百万人の市民を人権の危機にさらすことで、最終的にはEU圏のAI規制法の解釈を曲げるおそれがある。
EUは、AI規制法の議論を通じて大規模監視と市民の無差別な追跡を目的としたAI技術の利用に終止符を打つべきだ。同時にアムネスティは、大規模な監視を目的とした顔認証技術の利用の禁止を求めている。
大規模監視の合法化で、世界的なスポーツイベントが、かつてない規模でプライバシーの権利の侵害にさらされるおそれがある。
背景情報
AIによる大規模監視に関わる法案は1月31日に上院で可決され、3月8日に委員会での採決を経て3月23日に監視カメラ利用を許可する第7条が認められた。
アムネスティを含む38市民団体は、欧州非営利法センターが主導した公開書簡の中で、フランスの政治家に人権を侵害する監視を許す法案への反対を求めていた。
アムネスティと欧州デジタル・ライツ・ネットワーク(EDRi)を主体とする市民団体連合は、人工知能の技術とその導入においては人権に準拠したEU規則の法制化を訴えてきた。
アムネスティは以前、ニューヨーク市全域で数千台の顔認識CCTVカメラが市民を監視し、カメラの多くは有色人種が居住する地域に設置され、人種差別を助長している実態を明らかにした。
アムネスティ国際ニュース
2023年3月20日・23日
出典:フランス:オリンピックでの大規模監視技術の導入 人権侵害のおそれ©アムネスティ2020