アムネスティは11月27日、グーグルに対して同社が現在進める中国向け検索サービスプロジェクト「ドラゴンフライ」の中止を呼びかける署名運動を開始した。
ドラゴンフライが中国で導入されると、当局による検閲や監視が容易になり、ユーザーに多大なリスクを与えてしまう。例えば「人権」や「天安門事件」などの用語が検索されると、フィルタリング機能により勝手にブラックリストに載せられてしまう。
アムネスティは、グーグルのサンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)に対して、このサービスの導入中止を求める署名運動を全世界で開始した。グーグル社員自らが、プロジェクトに反対の声を上げていることを受け、アムネスティは、同社社員にも参加を呼びかけている。
世界最大の検索エンジンを提供するグーグルは今、重大な岐路に立つ。誰もが自由に情報を得られるインターネット環境の保持に心を砕くのか、中国政府の非情な企みに加担するのか。
同社社員の多くは、情報操作や反体制派の迫害などで中国の片棒を担ぎたくないとして、ドラゴンフライへの反対を表明している。社員の勇気と信念ある行動に対し、経営陣の判断のなんと恥ずかしいことか。
国家による弾圧
中国政府のインターネット上の検閲と監視は、世界的にも際立つ。
グーグルは2010年、ネット上の表現の自由が制限されているとして、中国マーケットから撤退した。それ以降も、中国はネット上での摘発を強化してきた。そのような状況で、サービスを再開するグーグルは、人権をどう守るのだろうか。
米国のインターネットメディア「ザ・インターセプト」が入手した内部文書によると、ドラゴンフライの試作品は、中国の検閲基準にもとづき人権に関わる用語を自動的にフィルターにかけ、ブラックリストに入れてしまう。グーグル自身が「ブラックリスト」を試作し、その中には、「学生抗議」「ノーベル賞」などの用語、さらに習近平主席批判の表現なども入っているという。
また試作品は、検索者の検索履歴情報を簡単に入手できるため、個人の特定が容易になる。中国の法律は、情報系企業に捜査への協力を義務付けており、グーグルが個人の逮捕・投獄に手を貸す事態になりかねない。
中国ネット戦略には、市民が得るすべての情報の操作やネット上の全個人情報の入手などがあるが、グーグルはこの戦略も実現可能にしてしまうだろう。
国際NGOフリーダム・ハウスによると、中国は、各国にネット監視技術を供与して、中国方式を世界に普及させることで、グローバル企業が拠点を問わず中国方式を受け入れざるを得ないように画策しているという。
グーグルはこれらの批判に対して、ユーザーの基本的権利を尊重すると約束しているという。しかし、人権尊重と検閲と監視を許すプロジェクトとの折り合いをどう付けるのか、説明はない。
グーグルは今こそ、決断するときだ。自由でオープンなインターネットを推進するのか、市民の人権侵害に加担するのか。
業界のリーダーとして、グーグルの対応は、他の企業の模範となる。サンダー・ピチャイCEOは、襟を正し、プロジェクトを永久に葬りさるべきである。
アムネスティ国際ニュース
2018年11月27日
更新情報(11月28日):Google社員がアムネスティの呼びかけに応じる
11月27日、グーグル社員が、アムネスティの#Drop Dragonflyの運動に賛同する書簡を公開した。その文面には、次のようなくだりがある。
「私たちの多くが、中国の検閲や監視に反対するなど、これまでグーグルが示してきた価値観に賛同し、自社がその価値観を利益より優先させる企業であると思ってきた。しかし、米国防総省に対する人工知能の軍事利用技術提供計画、女性社員への性的嫌がらで退職した幹部に対する多大な退職金、そして今回のドラゴンフライなど、この一年間、不本意な事態が続き、もはや事態を看過できないと判断し、声を上げることにした」アムネスティは、道義上の問題に立ち上がったグーグル社員の勇気ある対応に拍手を送るとともに、同社に対しあらためて、内部告発者や反対意見を言う社員を擁護するよう求める。
Amnesty International.グーグルは中国の検閲許す検索エンジン導入中止を © Amnesty International 2016.