アムネスティ・レポート2017/2018:中国

アムネスティ・レポート2017/2018
写真出所:アムネスティ

基本情報

国  名 中華人民共和国(PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA)

国家元首 習近平

政府首班 国務院総理 李克強

政府は「国家安全」の名のもとに、人権に重大な脅威となる新法の起草と制定を続けた。ノーベル平和賞を受賞した劉暁波さんが、拘束中に死亡した。多数の人権擁護活動家が、国家政権転覆罪や騒動挑発罪などあいまいで適用範囲が広すぎる罪の容疑をかけられ、拘束や起訴、有罪判決を受けた。複数の人権擁護活動家が、通常の拘禁施設以外の場所に長期間、拘束された。時には外部との連絡を断たれることもあり、虐待や拷問を受ける危険が高まった。インターネット上の規制、非公認教会の活動への弾圧が、強化された。反分離主義や反テロの名の下での宗教弾圧が続いた。こうした弾圧は、新疆ウイグル自治区やチベット人が多い地域で、特に激しかった。香港では、政府が、あいまいで適用範囲が広すぎる容疑で民主化活動家を起訴するなど、表現の自由が危機に直面した。

 

変貌する法律・憲法・制度

国家の安全に関するさまざまな法令が、次々と起草・制定された。その結果、当局は、異論を封じ、情報を検閲し、人権擁護活動家に対する嫌がらせや訴追をするための、一層強大な権限を手にした。

NGOの自由な活動に足かせをする外国NGO管理法が、1月1日に施行された。未登録のまま中国で活動を続けている外国NGOは、銀行口座の凍結、活動場所の封鎖、資産の没収、活動の停止、スタッフの拘束などを受ける可能性があった。

6月下旬、国家情報法が採択され、施行された。この法律は、スパイ防止法、刑法改正、国家安全法、反テロ法、外国NGO管理法、サイバーセキュリティ法など、2014年に制定された国家安全保障法制の一部をなし、人権擁護活動に重大な脅威となった。国家情報の対象範囲が広大で、国家機関の役割と責務があいまいであるため、当局の権限に歯止めがかからないおそれがあった。また、恣意的拘禁からの保護措置や、プライバシーや表現の自由などの人権を守るための保護措置がなかった。

当局による指定居所監視居住は、今年も続いた。通常の拘禁制度の手続きを踏むことなく、警察は最長6カ月間、正規の拘禁制度外で個人を拘束できた。自選の弁護士や家族などとの面会が許されず、虐待や拷問を受けるおそれがあった。この拘禁は、弁護士、活動家、宗教信者などの人権を擁護する人たちへの弾圧に使われた。

 

人権擁護者

ノーベル平和賞受賞者、劉暁波さんが7月13日、拘束が解かれないまま、肝臓がんで亡くなった。劉暁波さんは、刑務所から瀋陽市の病院に移された。当局は、「国外で手術を受けたい」という本人や家族の要望を受け入れなかった。劉暁波さんがノーベル平和賞を受賞した2010年以降、妻の劉霞さんは、当局から監視と違法な自宅軟禁を受けたままだった。少なくとも10人の活動家が、劉暁波さんを追悼する催しをして拘束された。。

2015年7月に始まった、人権弁護士や活動家に対するかつてない弾圧で、250人弱が、国家安全当局の取り調べや拘束を受けたが、そのうち7人が、国家政権転覆罪あるいは騒動挑発罪で有罪になった。3人は、執行猶予を受けて監視下に置かれ、残る4人は、収監されたままだった。4月、弾圧当初に拘束された北京の弁護士、李和平さんが、国家政権転覆罪で執行猶予付き懲役3年の刑を受けた。李和平さんは拘束中、薬の強制投与などの拷問を受けたと申し立てた。5月、尹旭安さんが懲役3年半を言い渡された。7月には、王芳さんが懲役3年を下された。2016年に刑を受けた胡石根さんと周世鋒さんは、収監されたままだった。

弾圧開始直後に拘束された北京の人権派弁護士の王全璋さんは、外部と隔離されたままで、国家政権転覆容疑で裁判を待つ日々を送った。1月、拘束されたもう一人の弁護士、謝陽さんは、インタビューの発言によると、拘束中、虐待や拷問を受けたということだった。謝陽さんの容疑は、国家政権転覆扇動と法廷秩序撹乱だったが、裁判後の5月、評決が出ることなく保釈された。ただ、当局の監視は続いた。7月には、2015年7月9日に拘束された北京の弁護士王宇さんが、「拘束中に虐待を受けた」とネットで公表した。王宇さんは、2016年半ばに保釈されたが、監視下に置かれてきた。弁護士の李姝雲さん、任全牛さん、李春富さん、活動家の勾洪国さんは、彼らが拘束中に薬物を投与されたと語った。

人権弁護士の江天勇さんが2016年11月、拘束中の謝陽さんの妻に会った後、行方不明になった。7月、国営メディアが、江天勇さんが「拷問を受けたと言ったのは作り話だった」と告白する様子をテレビで放送した。8月、国家政権転覆容疑で起訴され、判決が出るまで拘束されていた。逮捕された250人に加えて、法律事務所に勤務する吴淦さんも、後に拘束され、約27カ月間勾留された。8月、国家権力転覆の容疑で出廷した。

3月、広東省の活動家、蘇昌蘭さんは、中国共産党と中国の社会主義体制をネットで批判して、国家政権転覆扇動罪で懲役3年を宣告された。2014年の香港の民主化を求める雨傘運動を支持したときも拘束され、刑期満了でその年の10月に釈放された。しかし、その後、劣悪だった収監環境の影響で健康不安が高まった。

3月19日、台湾のNGO団体のマネージャーをつとめる李明哲さんは、マカオから中国本土に入ったときに国家安全当局に拘束され、9月には、国家政権転覆容疑で出廷した。

李小玲さん、周莉さん、李学恵さん、泉健虎さん、蔔永柱さん、趙春紅さん、趙欣さん、梁燕葵さんらの活動家が6月、天安門事件を追悼して拘束された。史庭福さんと丁亜軍さんが、6月4日と12日にそれぞれ拘束され、また、胡建国さんは、6月27日に行方不明になった。

 

労働者の権利

5月には、華海峰さん 、李招さん、蘇恆さんが、江西省で靴工場の労働環境を調査していたとき、拘束された。労働者の権利団体、中国労工観察(China Labor Watch)は、労働者が1日12.5時間、週6日労働を強要されていると申し立てた。活動家は6月に保釈されたが、警察の厳重な監視下に置かれた。

7月、広州の法院(裁判所)は、労働運動家・劉少明さんに、懲役4年半の刑を言い渡した。1989年に民主化運動に参加し、中国初の独立系労働組合に加入したこと、また天安門事件を経験したことについて当時を振り返った記事を公表したことで罪に問われた。

中国は近年、労働者の権利保護を強化する法律や規則を制定してきたが、その適用は相変わらずずさんな状況だった。中国国家統計局が4月に発表した報告書によると、2016年の出稼ぎ労働者で労働契約を結んでいたのは、2億8100万人中、わずか35%だった。

 

表現の自由 – インターネット

何千ものウェブサイトやフェイスブック、インスタグラム、ツイッターなどのSNSにアクセスができない状態が続いた。6月1日、サイバーセキュリティー法が発効し、インターネット会社はユーザーのコンテンツを検閲することが義務づけられた。8月には、中国サイバースペース管理局と広東省サイバースペース管理局が、インターネットサービスプロバイダーのテンセント社のWeChat、新浪微博、百度帖吧を調査した。これらのプラットフォームには、国家の安全、公安、社会秩序を危険にさらす情報(暴力、恐怖、虚偽情報や噂、ポルノなど)を拡散するユーザーアカウントがあったとのことだった。9月、中国で圧倒的なユーザー数を誇るメッセージサービスWeChatは、幅広く個人情報を収集するために新たな利用規約を導入し、9億人超の利用者データを政府に提供した。

中国の抗議行動情報を伝えるウェブサイト・六四天網の共同設立者黄琦さんは、国家機密漏えいで告発された。勾留されて8カ月後、ようやく弁護人との接見が認められた。2017年末現在で、六四天網の記者10人が勾留されていた(王京さん、張継新さん、李敏さん、孫恩偉さん、李春華さん、危文元さん、肖建芳さん、李昭秀さん、陳明燕さん、王淑榮さん)。

8月、蘇州市公安局は、2016年末に拘束された人権ウェブサイト・民生観察(Civil Rights and Livelihood Watch)を始めた劉飛躍さんに対し、従来の国家政権転覆扇動に加え、国家機密漏えい容疑で起訴する十分な証拠を得たと語った。弁護人によると、その容疑のほとんどが、被告人が個人的見解としてウェブサイトに掲載した記事だった

8月、ツイッターとブログで中国での抗議行動を記事にした盧昱宇さんは、騒動挑発罪で懲役4年を宣告された。

9月には、ネットのプラットフォームである中国人権キャンペーンの事務局長、甄江華さんが、国家転覆扇動容疑で拘束された。警察は、草の根の権利活動家たちからの報告も掲載されているウェブサイトに関連する文書多数を押収した。

 

信教・信条の自由

6月、国務院は、宗教事務条例の改正を可決、2018年2月1日に発効となった。これにより、国家が、あらゆる角度から宗教行為を管理することになり、宗教行為を監視・管理する当局の権限が政府の全レベルで拡大された。処罰権限も、もたらされるであろう。過激思想の浸透に歯止めをかけるために、国家の安全を強調した改正条例は、特にチベット仏教徒、ウイグル人イスラム教徒、非公認の教会などの宗教と信念の自由の権利を一層抑圧するおそれがある。

法輪功学習者は、迫害、恣意的拘禁、不公平な裁判、虐待や拷問を受けた。「邪悪なカルトで法執行を妨げた」疑いで2016年に拘束された陳慧霞さんは、拘束されたままだった。5月に、弁護士が法院(裁判所)に対し、拷問で強要された自白を証拠から排除するよう求めたため、裁判が延期された。

 

死刑

3月に最高人民法院院長は、法院(裁判所)が死刑判決の再検討と承認の権限を再び得てからこの10年、死刑制度は、厳重な管理と慎重な適用の下に運用されており、特に重大な犯罪の中の極めて少数の犯罪者に適用されている、との声明を出した。しかし、過去40年以上、国連機関や国際社会が死刑情報の開示を求め、また、中国当局自身が、法制度の情報開示を約束したにもかかわらず、政府は、死刑執行をめぐる事実を隠蔽してきた。

 

チベット自治と他のチベット人居住地域

■経済的、社会的、文化的権利

7月、極貧と人権に関する国連特別報告者は、2016年の中国訪問時の印象を次のように語った。「貧困緩和への取り組みの成果は、概して素晴らしいものだったが、チベット人とウイグル人が置かれている状況には、大きな問題があり、また、中国の少数民族のほとんどは、深刻な貧困、民族差別、強制移住などの深刻な人権問題にさらされている」。

チベット教育を提唱して勾留されているタシ・ワンチュクさんは、年末の段階で、公判前の拘束の状態が続いていた。家族との面会は認められないままだった。ワンチュクさんは、ニューヨーク・タイムズのインタビューで、チベットの言語や文化が消えつつあることに懸念を表して、2016年始めに拘束された。

■表現の自由

チベット民族は、信教と信条の自由、意見を述べる自由、表現の自由、平和的集会と結社の自由に対する差別と制限に直面する事態が続いた。

チベット人が多い地域で、少なくとも4人が抑圧的政策に抗議して焼身自殺をした。2009年2月以降の焼身自殺者数は、150人となった。3月4日、四川省甘孜チベット族自治区ガンジで、ペマ・ガルツェンさんが焼身自殺を図った。チベット人筋によると、警察がガルツェンさんを運び去るときには、まだ生きていたとのことだった。警察にどこに運び込んだのかと質した親族は、拘束され、暴行を受けた。国外のチベットNGOは、「2011年にチベット人僧侶ロブサン・クンチョクさんは、焼身自殺未遂の後、当局に拘束されていたが、3月に釈放された」と語った。

 

新疆ウイグル自治区

共産党新疆ウイグル自治区委員会の新しい書記、陳全国氏の指導のもとで、新疆ウイグル自治区当局は、取り組み課題として社会の安定と治安の強化を打ち出した。報道によると、新疆ウイグル自治区内には、「反過激主義センター」、「政治学習センター」、「教育と転換センター」などと呼ばれる看守所が置かれ、被拘禁者は、6〜12カ月間、時にはもっと長く勾留され、中国の法律や政策を学ばされた。

3月に、新疆ウイグル自治区は、「過激主義」と呼ばれる行動・行為を禁止する反過激主義規則を発効した。禁止対象となった行為は、過激思想の流布、公共ラジオやテレビに対する中傷やその視聴の拒否、ブルカの着用、「普通でない」あご髭、国家政策への抵抗、「過激な内容の」記事・出版物・映像や音声などの発表、ダウンロード、保存、閲覧などだった。

4月、政府は、使用禁止の名前一覧を発表した。そのほとんどがイスラム系の名前であった。この一覧に含まれる名前を持つ16才未満のすべての子どもは、その名前を変更しなければならない。

新疆ウイグル自治区の政府は、国外留学中のウイグル人学生全員に帰国を命じる方針を打ち出したとの報道があった。トルコに留学後帰国したウイグル人6人は、罪状が言い渡されることなく5年から12年の懲役刑を受けた。4月、当局は、エジプトに留学している学生の親族を拘束して、本人に5月までの帰国を強要した。7月、エジプト当局は、主にウイグル人を中心とした中国人数百人を一斉に拘束し始めた。このうち、少なくとも22人のウイグル人が、中国に強制送還された。エジプトと中国両当局は、彼らがその後どうなったのか、どこにいるのかなどを公表しなかった。

ウイグル人女性ブザイナフ・アブドゥレキシティさんは、エジプトで2年勉強した後、2015年に帰国したが、今年3月に拘束され、6月に秘密裁判で懲役7年を宣告された。

8月の国外メディアの報道によると、6月、ウイグル人が多いホータン県で教育担当当局が、学校における集団活動、公的活動、教務業務などでのウイグル語の使用禁止命令を出した。メディアによると、その地域の家族は、コーランなど宗教に関わる物品の提出を強要された。拒否した場合、処罰を受けるおそれがあった。

 

香港特別行政区

香港当局が、一年を通して実施した一連の措置は、表現の自由と平和的集会の自由が侵害されるおそれがあるのではないかという懸念を高めた。

3月には、「オキュパイ・セントラル(佔領中環)」と呼ばれる運動を始めたベニー・タイ(戴耀廷)副教授、朱耀明牧師、陳健民さんが、「公共の迷惑」関連容疑で起訴された。雨傘運動に参加したことが逮捕の背景にあり、最高7年の懲役を受ける可能性がある。

7月、高等法院は、香港基本法に関する全国人民代表大会常務委員会の解釈に合わなかったことを理由に、選挙で選ばれた4人の民主派議員、羅冠聰さん、梁国雄、劉小麗、姚松炎の議員資格を剥奪した。

8月、高等法院上訴法廷は、黃之鋒さん、周永康さん、羅冠聰さんの3人に、学生デモを主導したとして、それぞれ6カ月、7カ月、8カ月の懲役刑を言い渡した。黃之鋒さんと周永康さんは、違法集会への参加、羅冠聰さんは、違法集会への参加を扇動したとして、2016年に有罪判決を受けた。第一審を扱う裁判法院(治安判事裁判所)は当初、社会奉仕や執行猶予を命じたが、検察官側はより厳しい処罰を求めて上訴していた。10月、さらに上訴した黃之鋒と羅冠聰さんは、保釈された。

区域法院は2月、民主化雨傘運動中に逮捕した曾健超さんに暴行を加えた警察官7人に、懲役2年を宣告した。判決後、中国の国家機関が、香港司法を一斉に激しく批判する運動を開始した。

 

レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、インターセックスの人びとの権利

4月、高等法院原訴法廷は、公務員の同性の夫への手当の不払いは、性的指向に基づく差別だとの判決を下した。この香港初の判決に対して、政府は上告した。

9月、高等法院上訴法廷は、移民局が、就労ビザを保持する専門職の外国人の同性パートナーに被扶養者ビザを発行しないのは差別だとする判断を示した。

 

マカオ特別行政区

8月、マカオ政府は、4人の香港ジャーナリストのマカオへの入境を認めなかった。4人は、死者多数を出したとされる台風一過後に、被害と復旧作業を取材するのが目的だった。台風報道については、マカオ・ジャーナリスト協会(澳門伝媒工作者協会)は、少なくとも5つのマカオのメディアが、現場スタッフに対し、内容を前向きなものにして政府の対応について批判的なものは控えるよう指示していたと、報告した。

アムネスティ・レポート 2017/2018より

 

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