アムネスティ:中国:法改正にもかかわらず拡大する人権侵害

写真出所:アムネスティ

中国:法改正にもかかわらず拡大する人権侵害

2013年10月-11月 国連普遍的定期審査に関する提出文書

アムネスティ・インターナショナル

 

<はじめに>

アムネスティ・インターナショナルは、2013 年 10 月から 11 月にかけて行われる中国への普遍的定期審査に向けてこの提出文書を作成した。この中で前回の 2009 年審査において中国が同意した勧告の実施状況に対する評価を行った。また、現地の人権状況に対する懸念を述べた。たとえば、刑事司法制度内での人権侵害、恣意的拘禁と強制失踪、拘禁中の拷問、表現の自由の犯罪化、宗教団体の迫害、少数民族への人権侵害、強制立ち退きなどである。

 

<前回審査に対する中国の対応>

2009 年の第1回普遍的定期審査で行われた勧告に関して、中国政府はそのいくつかについて進展はあったものの、それ以外については大きな成果をあげることができず、一部については後退も見られる。

前回審査の後にいくつかの法律が改正され、より国際法との適合性が高まり、市民的及び政治的権利に関する国際規約 (ICCPR) の批准に近づいた。2013 年 1 月 1 日に施行された新しい刑事訴訟法は、刑事手続における違法な証拠の排除を国内法に盛り込み、拷問によって得られた証拠の採用を減らすことでICCPR 批准の可能性を広げた。また新しい刑事訴訟法では、無罪推定が強化され、死刑事件の容疑者や被告人への手続き面での保護も強化された。他方、別の面では ICCPR の批准への障害となる部分もあり、例えば 73 条では逮捕・拘禁した人の居場所を家族へ知らせるという警察の義務が削除されたことで強制失踪が法的に可能となり、また公的拘禁施設ではない非公開の場所に最長 6 カ月間拘禁できることになった。さらに、表現・結社・集会の自由や宗教・信条の自由の権利を行使する個人の訴追が引き続き多いこと、恣意的かつ違法な拘禁が多発していること、特定のグループに対して拷問やその他残虐な処遇が広く組織的に行われていること、不公正な裁判が多いこと、弁護人への迅速な連絡・接見を含む被拘禁者の権利が広く否定されていることなども、ICCPR の批准を阻んでいる。

中国は、自宅から強制的に立ち退かされた数十万人にのぼる人たちを保護していない。国内人権機関を設立することについて目に見える進展がなく、国連人権理事会の特別手続との連携「強化」も見られない。さまざまな国連の特別報告者からの 14 件の訪問要請は棚上げされてきた。

労働教養制度の改善は歓迎する。4都市において改善策が試行され、未確認ではあるが、当局が労働教養所の使用を将来的に停止すると述べた。しかしながら、当局はいまだ労働教養制度の廃止または大幅な改善についての包括的計画を発表しておらず、労働教養制度の運用に大きな変化があったとの証拠はない。数十万人が違法で恣意的な形で収容されており、身体的かつ精神的な拷問や、強制労働などの虐待を受けている。

チベット人、ウイグル人、モンゴル人を含む中国の少数民族は、表現・結社・集会の自由、宗教の自由、知る権利、移動の自由を厳しく制限されたままである。このことは、少数民族に対して「全ての人権」を保障すべきとする勧告に同意したことと矛盾するものである。

 

<法的枠組みと制度的枠組み>

2012年の刑事訴訟法改正では、法の目的の一つとして「人権を尊重し保障する」との文言が追加され、さまざまなレベルで政府の業務に人権擁護の概念が組み込まれることとなった。しかし、人権擁護の効果的な実施は官僚主義に阻まれている。

中国は国内人権機関設立のための正式な計画を発表しておらず、当局は市民団体や NGO に対し、法律上あるいは実際上、強力な保護を提供していない。

 

<人権の促進と擁護の現状>

刑事司法制度内での人権侵害

中国当局は依然として、表現・宗教・信条・結社・集会の自由の権利を平和的に行使している人びとを脅迫・迫害するために、刑罰を科したり、違法かつ恣意的、そして暴力的な手段を行使したりしている。

恣意的かつ違法な拘禁と強制失踪

数十万人が、司法審査なしの行政拘禁(労働教養、強制薬物更生施設、精神科病院への強制入院等)によって、恣意的に拘禁されている。その期間は数年におよぶことも多い。中国は、精神科病院に数十万人を強制入院させているが、政府への陳情者、人権派弁護士、法輪功の修練者、政治活動家等、政治的背景を持つ人びとを拘束するためにこの強制入院制度が乱用されている。ある公式筋によると、毎年 80 万人が精神科施設に収容されている。2011 年、人権派弁護士の金光鸿は精神科施設に 10 日間強制入院させられた。

強制薬物更生施設に強制収容された人は、2009 年には 50 万人に上ったと国連は推定している。中国の公式報告によれば、過去 4 年間で 92 万 2 千人が強制薬物更生施設に収容されている。アムネスティが入手した情報から、労働教養所の利用が減少している反面、政治事犯の処罰を目的とした強制薬物更生施設の利用が拡大していることがわかる。

また、中国での違法な拘禁の形態は多様化している。司法審査を受ける権利や公正な裁判を受ける権利を侵害され、恣意的な拘禁や拷問・虐待を受けるケースが数千件に上っている。その多くは拘禁が数年におよぶ。「黒監獄」は、不当な仕打ちを受けて救済を要求しに来た陳情者を数日から数カ月間拘束するために主に利用され、当局が既に閉鎖したと述べたにも関わらず、数百の「黒監獄」がいまだ運営されている。「黒監獄」は、ホテル、公営簡易宿泊施設、精神科病院、介護施設などの正式な拘禁施設でない場所にある。

人権擁護活動家とその家族が違法に自宅軟禁されるケースが増加している。この場合、数年にわたり外部とのあらゆる通信手段が遮断されることもある。例えば、劉霞は、夫である劉暁波 ( 投獄中 ) のノーベル平和賞受賞の報道の直後から、違法に自宅軟禁されたままである。

そのほかにも多くの人が、数日から数カ月の間、家族にも所在の通知がないまま、外部との通信手段を絶たれた状態で、非公式な場所に拘禁されている。

表現の自由の犯罪化

記者やブロガー、ジャーナリスト、学者、内部告発者、一般市民などが、表現の自由の権利を平和的に行使したことで、厳しい判決を受けている。こうした人たちは、民主化や人権を主張する記事を出版またはインターネット上に公開したり、公務員の腐敗や不正行為を暴いたり、禁止された宗教団体の情報を提供したり、あるいはチベットや台湾問題のほか、インターネット上でたちどころに大きな関心を集める問題など政治的にセンシティブな話題に触れたりしたことで処罰されている。そのほかにも多くの人が恣意的に拘禁されて脅迫されたり、拷問や虐待を受けたり、強制失踪の犠牲となったり、外部との通信手段を遮断された状態で、あるいはその他の違法な形で拘禁されたりしている。最も厳しい判決は海外のウェブサイトに記事や分析を投稿した人に対するもので、ほとんどの場合、「国家政権転覆扇動罪」である。

四川省の民主活動家で、08 憲章の署名者で作家でもある劉賢斌は、2011 年 3 月に「国家政権転覆扇動罪」で 10 年の拘禁刑の判決を受けた。2009 年に発表した 3 つのエッセイが有罪の「証拠」だった。これまでも、独立系の中国民主党を登記しようとしたり、雑誌「公民論壇」を創刊したりするなどの民主化運動によって、過去 20 年間のうち 12 年間を獄中で過ごしている。

2011 年 12 月、貴州省出身のベテラン民主活動家、陳西は、海外のウェブサイトにアップされた 36の民主化を支持する記事が証拠となり、劉賢斌と同様「国家政権転覆扇動罪」で 10 年の拘禁刑の判決を受けた。彼は以前にも、1989 年 6 月 4 日の民主化運動時の活動で 3 年の拘禁刑判決を受けている。また民主化運動によって 10 年の拘禁刑の判決を受けたこともある。

少数民族の記者、ウェブ管理者、知識人は、表現の自由の権利を行使しただけで厳罰に処せられている。2010 年 7 月、ウイグル人のジャーナリストでウェブ編集者であるハイラット・ニヤズは、「国家の安全を脅かした罪」で 15 年の拘禁刑の判決を受けた。逮捕時、警察は彼の家族に「過度の取材行為」が拘禁の理由だと言った。

ほかにも 4 人のウイグル人ウェブ編集者が、ハイラット・ニヤズと同様「国家の安全を脅かした罪」で、5 年ないし 8 年の拘禁刑判決を受けた。この中には、2009 年 7 月のウルムチでの騒乱(中国南部のウイグル人工場労働者死亡に対する中国政府の怠慢への抗議運動が、デモ隊への警察の暴力をきっかけに民族的暴動に発展)に関する秘密裁判で判決を受けた人もいる。この 2009 年の騒乱の際に失踪した人びとがまだ行方不明のままだということを、2012 年に失踪者の家族が海外の情報筋に暴露した。失踪した人の実際の数は数百人にも上るとみられる。

チベット人の焼身自殺に関する情報を海外に提供した罪で、長期刑の判決を受けているチベット人がいる。

「ジャスミン革命」に触発され 2011 年 2 月に始めた活動 ( 路上集会やブログ、その他の活動 ) を通して民主化を推進しようとした 100 人を超える活動家、ブロガーなどが起訴・拘禁されたり、監視下に置かれたりした。

オンラインフォーラムで何年にもわたって民主化の主張をしてきた、広東省深圳の警察官、王登朝は、2012 年 11 月 26 日、「横領」と「公務を混乱させた」ことにより 14 年の拘禁刑判決を受けた。中国当局は彼を政府転覆罪に持ち込むことができなかったので、金銭絡みの犯罪をでっち上げたのだと弁護士は考えている。王登朝は 2012 年 3 月、彼が協力した民主化や人びとの利益を支持する集会が開催される 2 日前に逮捕された。

拘禁中の組織的な拷問の蔓延

依然として犯罪捜査における拷問や虐待が自白の強要に用いられている。2012 年 6 月 6 日、長年の反体制派であり、労働活動家として知られる李旺阳が病院で亡くなっているのがわかった。李旺阳は数日前に香港で放送されたインタビューで拷問を受けていることを語っていた。当局は、死因は首つり自殺だと主張している。しかしその主張を疑問視する人は多い。李旺阳は 1989 年の天安門事件後に投獄された時に受けた拷問により、盲目で耳も聞こえず、また介助なしでは歩くことすらできない状態だったからである。李旺阳は 2 回投獄され、計 21 年以上収監されていた。

「邪教の」宗教的信条を持つ個人の訴追

中国政府は気功集団の法輪功を撲滅するために、組織的かつ全国的なキャンペーンを続けている。武力を行使することも多い。法輪功は 1999 年に「邪教」団体として活動を禁止された。何千人もの修練者が労働教養所や強制薬物更生施設、精神科病院に収容されている。管轄権を持つ独立した公正な法廷で公正かつ公開の裁判を受ける権利や、自選の弁護士との接見、無罪推定、司法審査手続を通して上訴する機会などが保障された適正手続のないまま、多くの人が何年も収容されている。当局は全国に数百の「法制教育訓練センター」を運営している。この施設は「洗脳センター」と呼ばれることも多く、とくに法輪功修練者を「転向」させるために利用されており、信念を捨てるよう強要される。拒否すれば精神的・身体的拷問がエスカレートする危険がある。アムネスティは、法輪功修練者が拘禁中に死亡したケースについて、十数件が拷問によるものであることを確認した。

2012 年にジャムス市で拘束された 9 人の女性法輪功修練者は、服役のためハルピン女性強制薬物更生施設に収容された。2009 年の初め、ジャムス市の女性労働教養所に収容されていた法輪功修練者全員がハルピン女性強制薬物更生施設に移送された。どちらも黒竜江省にあり、40 人から 50 人の女性法輪功修練者が収容されていると伝えられている。

当局は、「違法」もしくは「邪教」と指定した個人や宗教団体をはじめ、「家庭教会」のキリスト教徒や、カトリック、仏教、イスラムなど無認可で活動を続ける一定の宗教団体を犯罪として迫害したり起訴したりし続けている。これらの団体は嫌がらせや暴力、違法で恣意的な拘禁、長期刑、拷問やその他の虐待を当局から受ける危険にさらされている。

中国当局は依然として、民間宗教学校など政府から独立して宗教を実践しようとするウイグル人を厳しく取り締まっている。2012 年 5 月、「違法な宗教活動」を行った容疑で、9 人のウイグル人が 6 年から 15 年の刑を言い渡された。

少数民族への人権侵害

チベット人やウイグル人、モンゴル人などの中国の少数民族はひどい差別を受け続けている。また当局は「違法な宗教」活動や「分離主義的」活動というレッテルを貼った活動に対して厳罰を科している。しかし、そのほとんどが文化の面での平和的自己表現である。

ハダは、モンゴルの文化を守ろうとしたことを理由に「スパイ活動」および「分離主義」の罪で 15年の刑に服していたが、2010 年 12 月 10 日、その刑期が満了した日に拘束された。ハダの妻のシンナと息子のウィレスも、ハダの窮状を海外の組織に話したことの罰として、幾度となく拘束されている。当局は家族に対し、ハダが否認している「不正行為」を認め、家族が海外メディアに話すことをやめない限りハダを釈放しないと通告した。ハダの息子は 2013 年のはじめ、ハダに精神疾患の兆候があることを伝えた。

強制立ち退き

この 4 年間で、中国全土で数百万人が法的な保護や保障、適正な協議なしに住居を強制的に立ち退かされた。強制立ち退きは前触れなしに、力づくで行われ、死者も出ている。立ち退かされた人びとが受け取る補償金はわずかか、全くもらえないことも多く、あたえられる住宅も補償に値しない場合がほとんどである。立ち退きに異議を申し立てる人びとや補償を求める人びとが公正な司法判断を得る望みはほとんどない。裁判所は立ち退きに関する不服申し立ての受理をたびたび拒否し、政府の上部部局へ陳情しようとしてもほとんどかなわない。強制立ち退きに非暴力で抗議する人びとにも、拘禁や投獄、労働教養所に収容される危険が伴う。中には焼身自殺や暴動などの過激な手段に訴える人びともいる。

2011 年 1 月、都市部での立ち退きを強引に行うことが違法と定められ、立ち退きに直面している都市部の住宅所有者にあらたな保護が加えられた。しかしこの規定は、郊外や農村部の住民には適用されない上、ほとんど守られていない。そればかりか地方政府が開発のために土地を接収することで経済的に潤う状況は変わっていない。

 

『中国:法改正にもかかわらず拡大する人権侵害』  全文

Amnesty International.中国:法改正にもかかわらず拡大する人権侵害 © Amnesty International 2013.