[編集者注] 彼はかつて中国で名の知られた俳優だった。全能神教会に改宗した後、宗教迫害を逃れて韓国に亡命した。亡命先でも中国共産党による迫害は続いている。Facebookに投稿した自身の談話をBitter Winterのために改訂したのが本稿である。
フェイクニュース
少し前に中国共産党はウェブサイト上で私が「失踪」し、宗教団体に「操られている」と断言した。そこには私が家族を顧みず、帰宅を拒否し、家を訪ねようともしない、とも書かれていた。私は人権に関するドキュメンタリーの撮影で忙しく、そのフェイクニュースを放置していた。
しかし、中国共産党は様子を伺いながらますます接近してきた。私を貶める噂や中傷をもう一度広めた。さらに悪いことに、中国本土にいる私の親族を無理やり韓国に送り込み、全能神教会に反対する偽のデモに参加させた。韓国当局に訴え、私を中国に送還させようとしたのである。中国共産党が韓国に住む 全能神教会の亡命者に嫌がらせを繰り返し、私の信仰を中傷していることに強く抗議する。私は沈黙を破り、自身の基本的人権と信教の自由のために声を上げようと決めたのだ。今こそ真実を語るときである。
中国で俳優業を営む
私はプロの中国人俳優であり、30を超える連続ドラマに出演してきた。テレビドラマ『少年包青天』の宋の仁宗皇帝役など、7人の皇帝役を次から次へと演じた。ファンは私を「皇帝担当者」と呼ぶが、自分は平凡な俳優に過ぎないと思っている。実際に知り合った人は、私を誠実で気さくな性格だと言ってくれるはずだ。俳優が生きる世界は無秩序であり、正直さ、誠実さの価値を保つのが容易ではない場合もある。しかし、この2つは常に私を導く規範であり続けた。
順調にキャリアを重ねていたものの、心に虚しさを感じることもしばしばだった。芸能界では、表向きは華やかで美しい有名人の多くが、舞台裏でギャンブル、ドラッグ、奔放な性欲に身を任せているのを見てきた。政治家の手足になり、消耗しきって非人間的な生活を送る者もいた。自分の精神生活の本当の意味を求めて、青海と北京の有名な仏教寺院を何度も訪れ、説法などの宗教活動に参加した。そこではよく仕事や家族安全のために祈っていた。
改宗
『共和に向かって』の撮影中に母が重病を患っているとの知らせが入り、看病のため、私は役を降板した。2006年に母が亡くなるまではほとんど俳優の仕事をしなかったので、私は次第に世間の目にふれなくなっていった。
母が死去し、中年になって初めて私は愛する人を失う深い悲しみに陥った。人生とはなんともろく短いのだろうか。人間の一生は瞬く間に過ぎ去り、待ち受けているのは病気と死だ。私は世界に生きる価値と意味に思いをめぐらした。私たちはどこから来てどこへ行くのか。何人かの生き仏にも会いに行ったが、誰も私の戸惑いを払拭できなかった。
全能神教会に出会ったのは偶然だった。全能神の言葉は私の混乱を大きく解き放ってくれた。全能神は、人間が何世紀かけても解けなかった聖書の中の奥義を明らかにした。神がいかにして人類を救うのか、人類の終着点は何か、神はどのようにしてこの世界を支配して治め、終わりの日の裁きの働きをするのかなど、全能神は多くの奥義を人類に解き明かした。全能神の言葉をじっくり求め、調べることを通して、私は正式に全能神の御国の福音を受け入れた。
迫害
こうして私は全能神教会のキリスト教徒になった。福音を説いたり、集会に出席したりと教会活動にも関わり始めた。
2008年、私は北京で教会備品の運搬の責任者になった。市外の料金所に短機関銃を携えた武装警察が大勢待機し、車を止めて検査をしているのを常々見かけていた。私はこの任務によって逮捕されたが、兄弟姉妹の中には同じ仕事をして拷問を受け、死んだ人もいた。教会の友人たちとチームを組んで福音を伝えている最中、何度も中国共産党警察にとらえられた。ある 村 では警察に狙われて取り囲まれたこともある。地元の教会の姉妹2人が逮捕されたが、私は逃げおおせた。
中国共産党は2014年に マクドナルド殺人事件 の罪を全能神教会にかぶせ、百日間作戦と呼ばれる国家規模の逮捕作戦を開始した。教会の中でも大勢の兄弟姉妹が逮捕された。中国で信仰を持ち続けていたら、仕事を失うだけでなく逮捕されて服役することになるだろう。選択の余地はない。私は家族とともに国外の民主主義国家に逃げ、政治的亡命と人道的支援を求めようと決めた。
難民になる
2014年、私たち3人家族は韓国に逃れた。到着以来、家族と私はついに信教の自由を享受できるようになった。息子もこの地で健康かつ幸せに暮らしながら成長している。私は仕事を再開することにした。俳優として演じる以外にも、福音を伝える映画や、中国の迫害と人権侵害を明るみに出すドキュメンタリーを作り始めた。かつて私は皇帝役を演じて名声を得た。人権についての映画はそれほど注目を集めず、名声も富ももたらさないが、ドキュメンタリーを活用して世界の人々に中国共産党によるキリスト教徒の虐殺などの悪事をはっきりと知ってもらうことはできる。そして重苦しい圧力の下で人権を奪われているキリスト教徒に希望の光を示せる。でも、これは後付けの理由かもしれない。このような小さな仕事をすることは、自分がスターになるよりもはるかに重要だと私は思っている。私にとって豊かで有意義な人生だ。
私が関わった2017年からのドキュメンタリーシリーズ『中国における宗教迫害の実録』はいくつもの国際映画祭で賞を勝ち取った。
国外でも攻撃される
しかし、中国共産党は私と妻を見逃したわけではなく、追跡と嫌がらせが続いた。国保大隊、国家安全局、省公安庁の警察官が私の姉や妻の弟の自宅に何度もやって来ては、外国に行くよう無理やりけしかけた。偽のデモに強制参加させ、韓国の世論を動かし、私たちを中国に送還させようという腹である。
茶番劇の第1回目は2018年3月に行われた。当時、私は教会で撮影をしていた。すると突然、韓国外務警察署から、韓国市民が私たち家族の代理と称して警察に申し入れをしている、という手紙を受け取った。この人物は、私たち家族3人が行方不明の中国人で全能神教会に操られているのだと言い、韓国警察に居場所を突き止めてほしいと頼んできたのだという。私は耳を疑った。姉は私が韓国にいることを知っているし、亡命後も連絡を取っている。それなのになぜ私たちが行方不明者だと言うのか。誰かが隠された動機で糸を引いているに違いない。
3月中旬、姉が韓国に訪ねて来た。韓国外務警察署の助けを得て私たちの教会まで来たのだ。そのとき姉のそばには中国の私服警官2人が付き添っていた。私は姉に自分の近況を話した。韓国で自由に暮らし、信仰を守っている、と。会話中、姉はまるで誰かに操られているかのように、奥歯に物が挟まったような話し方をしていた。2人の警察官は承諾もとらずに私の写真を撮り、私の友人に元気だと伝えるためだ、と嘘をついた。しかし後になって中国共産党は私の意に反して写真をプロパガンダのウェブサイト上で使用した。姉に付き添っていた2人の男性はやはり警察官だったのだと確信したのはそのときだ。
姉は私たちに再会し、民主主義国の韓国で自由な暮らしを謳歌していることが分かったはずだ。それは、全能神教会に操られて失踪した、という中国共産党の話と相反する。そして姉は安心して中国に帰って行った。
後に、中国で私の住民登録が残っている地域の警察署の警察官が家族を訪ねていたことを中国本土の友人を通して知った。姉は韓国に私を捜しに来たが、自らそうしたのではなかったのだ。完全に国家安全局に煽られ、強制されていたのである。中国共産党が繰り返し訪ねてきては、あれこれと言ってきたので、姉はついに来ざるを得なかったのである。
また、姉が韓国から中国に戻ると、飛行機を降りるなり 国家安全部の担当者に連行されたという確かな知らせも受け取った。私があえて姉に電話をしないのは、彼女が面倒に巻き込まれるのを恐れているからである。
偽の「家族捜索団」
しかし、中国共産党はまだこの件を終わらせたくなかったようだ。再び、その悪の手を民主主義国、韓国にまで伸ばしてきた。2018年8月下旬、中国共産党は親中国共産党の韓国人活動家である呉明玉(オ・ミュンオ、오명옥)氏に指示して偽の「家族捜索団」を結成させた(Bitter Winterの読者はよくご存じだと思う)。全能神教会の亡命者(妻の弟も含む)の親族11人を中国共産党は韓国に連れてきた。呉氏の手配と引率の下、彼らは青瓦台(韓国大統領官邸)や温水にある全能神教会施設などで「親族捜索」の口実のもと5日間に及ぶ偽のデモを実行した。
9月3日、私たちは警察に親族との面会を求めた。警察の手配で妻と私は義弟に会うことができ、誰もが幸せなときを味わった。全員が元気でやっていることを確かめ合い、安堵した。どうやって韓国に来たのか、デモを組織したのは誰か、なぜこんなやり方で私たちを捜しに来たのかと尋ねたが、義弟はわざと話題をそらした。
警察から入手した書類を見ると、義弟が私と妻は全能神を信じる以前は幸せだったが、改宗後は親族との付き合いを避け、おかしなふるまいをし、無視するようになったと主張していたことを知った。中国に帰って病気の義母の世話をしない、息子の輝かしい将来を台無しにしている、とも書かれていた。事実を歪めて白を黒だと言いくるめた内容だった。その報告書は、義母が病気のときに中国まで見舞いに来なかった、と明言していた。しかし実際は、彼女は既に私たちが韓国に来る前に亡くなっており、息子は韓国で良い教育を受け、学校にもなじんでいる。
私はこの件を義弟に突きつけ、警察に虚偽の情報を報告した理由を問いただした。彼はあっさりと報告書を書いた覚えはないと言い、中国共産党のでっち上げだろうと答えた。中国共産党は、嘘をついて世論を作り上げるための見せかけとして私の親族を利用したのだ。党がこのようなことを行っているのは、韓国で全能神を自由に礼拝している私たちキリスト教徒を中国に送還させ、投獄し、迫害するためである。それが彼らの目的なのだ。
2019年に行われた次の茶番劇
2019年7月22日から24日にかけて、中国共産党は古い仕掛けを持ち出し、全能神教会に属するキリスト教徒の中国に住む親族を再びだまして強制的に韓国に連れてきた。呉氏に率いられ、「親族捜索」の口実のもと、また偽のデモを行ったのである。韓国に逃げた全能神教会のキリスト教徒を中傷し、偽の亡命者だと言って虚偽の告発をした。そして韓国政府に彼らを中国に送還するよう求めた。義弟も再びデモに参加した。今回は義父も一緒に来ていた。
7月21日、2人の韓国到着日に私と妻は仁川国際空港まで出迎えに行った。義父は孫にとても会いたがっていたので、一緒に私の家に来て、きちんと家族で会おうと言ってみたが、義弟に断られた。私たちが何度誘っても、彼は呉氏に同行するのだと言ってきかなかった。彼らは「親族捜索」に来たというが、その親族が目の前にいるのに、なぜ再会したがらないのか。答えは明らかで、「親族捜索」はただの口実だからだ。偽のデモを行い、韓国政府に圧力をかけるために、中国政府と呉氏は彼らをここまで連れてきたのである。
7月24日、呉氏率いる「家族捜索団」が教会施設の正面に立ち、大音量で私たちの信仰を侮辱し、中傷した。義弟もその中にいた。「家族捜索団」が絶叫するスローガンは念入りに準備されたようだったが、その内容は現実とはかけ離れていた。
私は義弟がわざと「なぜ会おうとしないんだ?」と叫ぶのを聞いて非常に驚いた。飛行機を降りてすぐに会ったではないか。しかも自宅に招いたではないか。なぜ義弟は本当のことを言わないのだろう。
事前に台本が用意されていたかのように、義弟は叫んだ。「あなたの父親が病で死にかけていたとき、なぜ会いに帰ってこなかったのか」。それを聞いて私はやはり推測は正しかったのだと思った。彼らの言っていることはすべて中国共産党が巧妙に作り上げた話だ。私たちが「操られ」て「家族を無視している」と錯覚させ、韓国の世論を惑わせ、次の段階である私たちの中国送還への道筋をつけるのが目的である。
中国共産党の操作と洗脳の下で、親族たちは叫び続け、中国に宗教迫害などないと言い張った。その言葉はまさに中国共産党の外交官の演説にそっくりだった。そのような話を信じ込んで口に出すのは中国共産党そのもの以外にない。実にばかげている。中国共産党が宗教を信じる人々を迫害していることは世界に知られた事実なのだ。中国は信教の自由に関して世界最悪の国家として広く認識されている。父が臨終の床についているときに最後に一目会いに中国へ行かなかったのは中国共産党の迫害が理由だ。そのことを思うたび心が痛む。
この家族たちが中国共産党に操作、強制されているのは明らかだ。家族に会った教会の兄弟姉妹たちの話では、会話中、家族のふるまいが不自然で、かなりの違和感を抱いたという。兄弟姉妹が中国共産党に言及したり、なぜ「親族捜索」のために韓国訪問に至ったのかを訪ねたりすると、家族は話すのを制限されているとでもいうように落ち着かない様子を見せた。ためらいながら要領を得ない話し方をしたり、一切答えなかったりした。話を避けようと立ち去る家族さえいた。会話中も全員が、早く話を終わらせるように強いるメッセージや電話を受信していた。陰で動いている謎の人物から指示を受けているのは明らかだった。
中国共産党と呉明玉氏が共謀して企画した茶番劇は結局今回も恥をさらしただけで終わったものの、共産党が陰謀計画を諦めるつもりはないだろう。呉氏らは脅しの文句を叫んだ。「また戻ってくるぞ。1週間後に戻ってくるぞ。今回は20人、次回は50人でくるぞ。毎月、毎年、全能神を信じるこの人たちを中国に連れ戻すまで」。
中国共産党の邪悪な意図が明らかになった。呉氏を利用し、偽のデモを10回行って韓国に住む全能神教会のキリスト教徒に嫌がらせをし、中傷したのだ。民主主義国では相当に稀なことである。呉氏は韓国市民の顔に泥を塗っていると思う。彼女が中国共産党に代わって韓国で立ち上げたキャンペーンは韓国の民主主義体制を侮辱している。止めさせるべきだ。
出典:Bitter Winter/賈志剛(チャ・チガン)