南北アメリカ地域:感染リスクにさらされる移民・難民 収容の停止を

(C) Amnesty International (Archive photo from 2018)
(C) Amnesty International (Archive photo from 2018)

カナダ、米国、メキシコ、キュラソー、トリニダード・トバゴなど、南北アメリカ諸国では、非正規移民や庇護希望者が、在留資格がないというだけで感染リスクが高い収容環境に置かれている。こうした収容は、国際人権規範、公衆衛生規則に違反している。在留資格は、人の尊厳や生きる権利とは無関係だ。

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、拡大を効果的に食い止め、防ぐことのできる犠牲を出さないためにも、各国は収容されている移民らを速やかに施設から出し、一般市民と同様に感染から身を守るための対応を取るべきである。

カナダ

アムネスティは3月24日、カナダ政府に対して、感染拡大のおそれがある中、施設内の人数の削減を求める書簡を送付した。

カナダ国境サービス庁(入国管理機関)が施設に収容する移民は、わずか数百人ほどだったが、米国に比べ被収容移民の死亡率は、数倍高い。

カナダ政府は、人びとが命を落とすリスクを最小限に抑えるために、あらゆる対策を取るべきである。

国境サービス庁は、例外的な状況を除き、原則として収容をやめるべきである。さらに、現在のパンデミック下では、感染リスクが高いだけでなく、被収容者やその家族にとって心理的ストレスが大きくなる。ケベック州ラヴァルにある入国者収容センターの被収容者が、感染リスクを恐れて解放を求めるハンガーストライキを行った。当局は、収容あるいはその継続が本当に必要か否かの決定に、被収容者に与える心理的影響を最大限、考慮するべきである。

キュラソー

3月30日現在、キュラソー島は、4月12日まですべての人びとの入国禁止措置を取っている。

同国はしばしば、ベネズエラからの移民や庇護希望者を拘束し、彼らが国際的な保護を受ける権利を阻んでいる。昨年4月に現地に入った難民支援団体によると、政府は、庇護希望者らを保護するどころか、逮捕、拘束、国外追放など、排他的政策を取っていた。

人道危機でベネズエラを逃れた難民・移民の人道対応を統括する国連関連機関によると、今年3月現在、同国のベネズエラ人は3月時点で推定16,500人だが、そのうち拘束されている人の数は不明だという。アムネスティが昨年、一昨年と行った現地調査で、非正規移民の収容施設内は、過密で不衛生、寝具不足など悲惨な状況だったことはわかっている。

2018年5月には、逮捕時や拘禁中の虐待が数件、報告された。女性が、警備員に石鹸やタオルと引き換えに性行為を求められることもあった。キュラソーの弁護士の話では、今年1月、8カ月以上拘束されていた非正規移民数人が、劣悪な環境に抗議してハンストに入った。

キュラソーは、収容されている移民や庇護希望者全員を開放し、生活に必要な物資や医療などを提供すべきである。

メキシコ

グアテマラとの国境を閉鎖したメキシコは、移民たちを施設に収容するか国外退去にするか、どちらかで対応している。政府は、収容施設の収容率は45%で、ウイルス対策も取っていると説明したが、実際は、タバスコ州の施設のように過密状態のところが、数カ所はあるとされている。

3月31日、収容されている移民たちが解放を要求して騒ぎとなった際、火災が発生し、グアテマラ人1人が亡くなった。火の手が上がっていたが、近くにいた警官は収容施設の門を開こうとしなかったという。けが人も数人出た模様だが、死傷者数の詳細は、公表されなかった。

解放要求は他の収容施設でも起きている。3月23日には、チアパス州最大の施設内で、移民、庇護希望者数百人が解放を求める声を上げた。

被収容者は感染爆発のリスクにさらされており、当局の対応では不十分だ。また、収容期間が明らかではなく、このままでは無期限収容となりかねない。これは、国際人権基準を蔑ろにするものである。

メキシコ当局は、収容に替わる適切な代替策をまとめ、直ちに実施しなければならない。同国の国立移民研究所によると、収容されている非正規移民者の数は、3月17日時点で3,059人だった。一人でも多くの移民や庇護希望者を収容施設から速やかに外に出し、適切な住処と十分な食糧や医療などを提供すべきである。過密で不衛生な環境では、彼らの健康は、心身とも損なわれるおそれがある。

トリニダード・トバゴ

トリニダード・トバゴは3月18日、新型コロナウイルス対策として外国籍者の入国を14日間禁じる措置を取った。その4日後には、自国籍者を含むすべての入国を禁止した。

同国には難民に関する法令がない。ベネズエラからの難民・移民の人道対応を統括する国連関連機関の推定では、3月現在、同国には24,000人のベネズエラ人が暮らしている。1月現在、国連難民高等弁務官(UNHCR)への難民申請者は17,391人だったが、そのうちの16,500人は、前年に短期ビザを受け、就労を許可された。

一方で、非正規に入国した難民・移民、特に国内の危機を逃れてきたベネズエラの人たちを、犯罪者として拘束している。警察当局によると、3月17日にベネズエラ人33人が拘束され、3月23日現在、60人のベネズエラ人が非正規入国者として留置所に拘置されている。

ここ数年、トリニダード島の入管施設には、主にベネズエラ人など数百人が収容されているとされるが、定員150人ほどの部屋にどれだけの人数が収容されているか、正確な数は掴めない。アムネスティなどの団体の多くは、視察を認められなかったが、18年6月に訪問を許可された団体によると、公衆衛生上にさまざまな問題があると指摘していた。ウイルスの感染拡大があれば、感染するリスクが高いことを示唆するものである。

政府は、非正規入国や庇護申請中というだけで拘束している人びとを解放し、ヘルスケアなど基本サービスを、差別なく受けられるようすべきである。

米国

米国は、世界最大規模の非正規移民や庇護希望者を収容する体制を取る。200カ所以上の施設にほぼ4万人が収容されている。

国土安全保障省(DHS)の移民税関捜査局(ICE) は3月24日、米国の移民収容施設で初めてコロナウイルス感染者を確認したと発表した。それ以降、職員33人が感染し、多数の被収容者が、感染防止のために隔離されていることを明らかにした。

そうした状況の中、収容環境が大いに懸念される。被収容者の話では、石鹸や消毒薬が足りず、他人との距離も十分にとられていない。症状が出ても医療対応は遅い。このような環境では、基礎疾患がある人にとって感染・死亡リスクは一層高まることになる。

アムネスティ国際ニュース
2020年4月2日

出典:アムネスティ.:南北アメリカ地域:感染リスクにさらされる移民・難民 収容の停止を©アムネスティ2020